[プロフィール]
京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。理学博士。専門分野は群集生態学、理論生態学。研究テーマは食物網構造と生態系機能・個体群動態の関係。「シリーズ群集生態学(京大出版)全6巻」責任編集。日本生態学会第8回宮地賞受賞・日米数理生物学会 大久保賞(2012)受賞。平成26年より現職。
生物群集とはある生態系にいる生物種の集まりのことで、特定の種を対象とする個体群生態学に対して、相互作用を持ち合う複数の種を対象に研究するのが群集生態学です。
数理モデルを用いた理論群集生態学を専門に、環境DNA分析を用いた共同研究にも取り組み、生物種が互いに食べたり食べられたりしている「食物網」の複雑性と、種の絶滅の起こりにくさの間にどのような関係が成り立っているかを理論的に解明しようとしています。
「生態系の中ではさまざまな種類の生物が一緒に棲んでいるが、なぜそれが可能なのか、自然のバランスが保たれているのはどういう仕組みによるのか」というのが、今、興味を持っているテーマです。
そもそも生態学という学問分野に取り組むことになったきっかけは、中高と仏教系の学校で学び、宗教の授業で「どんな生き物もそれだけで存在しているわけではない。すべての生き物が他のすべての生き物と直接的・間接的に関わりながら、互いを生かしつつ生きている」という考え方に興味を引かれたからです。
大学の理学部3回生の時に、東正彦先生の数理生態学の授業で、種の個体数変動について自然を模倣した数理模型をつくって、生態系がどう動くかを表現する方法を学び、これを使ったらすべてのものが互いに依存しているということを、数式で表わせるのではないかと思いました。
自然生態系はたいへん複雑なシステムなのに壊れずに続いています。たくさんの種の生き物が複雑に関わっているのに、種の絶滅が起こりにくいのは実に不思議なことで、複雑さと安定性の間の関係を明らかにしたいというのが、今の研究の基礎にある疑問です。
食物網は特定の生態系において、どの生物種がどの生物種を食べているかを描いたネットワークのこと。
理論研究では比較的簡単に、複雑な生態系を表現する数理モデルを作って実験することができます。そういう研究はたくさんあって、予測も数多くあるのですが、実証研究はほとんどありません。複雑さも安定性もどちらも実際に調べるのがすごく難しいため、実証研究が理論研究に追いついていないのが現状です。
これまでは理論研究が中心でしたが、一度理論を忘れて、野外で今までの理論モデルをテストできるような方法を作りたいと思っていた時に、川や海の水を調べてどのような生き物がいるかを分析する環境DNAという技術に出会いました。
生き物と生き物がどう関わっているのかという複雑さと、たくさんの生き物の個体数がどう変動しているかという安定性について、環境DNAと数理技術を組み合わせると両方がわかるのではないかと考えるようになりました。
龍谷大学と神戸大学、京都大学、北海道大学、千葉県立中央博物館などの研究者からなるグループでは、環境DNA分析を用いて、生態系の以下のような状態を調べる方法を確立することを目指しています。
水を分析してどんな魚種がいるかを判定する技術では、共同研究グループがすでに高い成果をあげていて、沖縄県の美ら海水族館の水槽の180種の魚のうち、約93%に当たる168種を特定することができました。
私の研究室でメインに進めているのが、4. の「どの生き物とどの生き物が関わっているのか」です。実際の生態系はすごく複雑で、わからないことがたくさん起こります。食べたり食べられたり、また競争したり、助け合ったりといったことを、個体数の変化だけから推定しようとしています。水を分析してどの生き物の個体数がどう変化したかを明らかにすることで、何と何が相互作用しているかもわかるようになります。
そして、環境DNA分析は、今後以下のような分野での応用が期待されています。
ほとんどの研究者は、自分の研究に没頭しているため、その成果を社会に役立つ技術や製品につなげようとは、なかなか思わないものです。役に立ちそうな技術を見つけることがあっても、どうして売り出すのかというノウハウを知らないので、せっかくの研究成果も社会に還元できないということが少なくありません。企業のみなさんには、私たち研究者をもっと利用してほしいと思います。
こうしたら役に立つ、こういう分野に使えるのではないかといったアプローチを、もっと企業の方からしていただくだけでなく、製品化を進めたり、事業を立ち上げたりといった、研究者の不得手なところをサポートしてもらえるなら、もっと 研究成果を活用していただくことができるはずです。