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シーズダイジェスト

人に新しい体験をもたらすインタラクティブ・メディアを提案 理工学部 情報メディア学科 外村 佳伸教授

[プロフィール]
日本電信電話公社横須賀電気通信研究所 研究員、米国MITメディア研究所客員研究員、NTTヒューマンインタフェース研究所主幹研究員、NTTサイバーソリューション研究所 主幹研究員、NTTコミュニケーション科学基礎研究所主席研究員/所長を経て、2010年より現職。
趣味は、景勝地や史跡の散策。いつも好奇心全開で、若い学生たちと一緒に、未来の情報社会を豊かにするアイデアを磨き上げる。

今、情報技術が画期的に進歩し、あらゆるモノがネットワークでつながり、様々なやり取り(インタラクション)ができる時代を迎えようとしています。私たちはこれまで目的に合わせて特定のコンピュータを使うことを主としていましたが、これからは私たちが普段身の回りにある自然やモノに対して働きかけているように、周囲の情報環境とやり取りするようになると考えています。そこではネットワークを背景とした情報環境を、アンビエント、つまり私たちを取り巻く環境そのもの-空気感、雰囲気と言っていいかもしれません-としてとらえることで、人にとって新しい感覚の体験をもたらせるのではと考えています。しかしそれがどのようなものかを考えるには新しい発想を必要とします。

そこで私の研究室では、「こんな未来があればいい」と学生たちが考え出したたくさんのアイデアを検討し、実際にプロトタイプを作って可視化し、多くの人に体験・評価してもらうという取り組みを進めています。もちろん新たな技術開発も必要ですが、それ以上に重視しているのはそのアイデアの根底にある発想や考え方です。私たちがアンビエントな情報環境にどのように関わっていくのか…。初めてそのプラットフォームに触れた人が面白い、楽しいという気持ちを持ってくれれば、いつしか日常の中でそれらが使われるようになり、私たちとコンピュータとのインタラクションはより自然に、より豊かに変わっていくのではないでしょうか。

インタラクティブ・アンビエント・メディア研究への取り組み姿勢

インタラクティブ・アンビエント・メディア研究への取り組み姿勢
MonoReco

MonoReco

Master of Surrounds

Master of Surrounds

研究室で具現化した新しいインタラクションスタイルの実例を紹介しましょう。

ぬいぐるみに添えられた一枚のメッセージカード。カードを開けば、「誕生日おめでとう」という友人のメッセージがぬいぐるみから聞こえてきます。様々なモノに仮想的に声を吹き込み、いつでも好きなタイミングで再生できるというシステムです(MonoReco)。また、部屋という空間の中では、時計やテーブルを指差して手を開くだけで、自分のお気に入りの音楽が次々とかかり、手を握れば音楽をストップすることができます(Master of Surrounds)。

CDを選んだりプレーヤーを動かしたりするのはモノの都合で、私たちが思っているのは「音楽を聴きたい」ということだけ。こうしたシステムのバックグラウンドには、音を出すスピーカーや人の動きを認識するセンシング技術、情報処理システムなど様々な技術が必要ですが、目の前にあるモノや空間に仮想的に情報を結びつけ制御することで、コンピュータを使っていることを一切意識させることなく、ぬいぐるみや時計からあたかもメッセージや音楽が流れてくるように感じ、自然なインターフェイスで関わることができるのです。

「人が本来持つ能力を活用」と言っていますが、人が普段自然に行っている景色やモノをきっかけとした行動や記憶の想起を活用することで、インタラクションをもっと自然で身近に楽しめる情報環境が実現できるという提案です。

音を楽しむ方法としてこれまでにあまり行われていないこと、それは音を可視化して触れてみること…。そんな発想から生まれたのが、SoundPond(にぎやかな音たち)というシステムです。吹き込んだ音声を色とりどりな音オブジェクトとして表現し、それらをある場に置いて再生したり、オブジェクトを引き伸ばせば音が長くなったり、動かせば音階が変化したりします。他のオブジェクトや場の中にある様々な干渉物と互いに作用しながら音を再生していくという仕掛けもあり、イベントなどで体験してもらうと、最初は何の知識もなかった子どもたちが直感的に操作法を発見し、いろんなオブジェクトを集めて曲を作るなど、新たな工夫につながっていきます。まさに、気づきを感動や創造につなげていく体感型のインタラクションだと言えます。

Sound Pond

Sound Pond

今世間を賑わせている「人工知能」に対して、私たちが重要視している「環境知能」という概念があります。長い進化の歴史の中で培われてきた自然環境には様々な賢さが含まれています。そのしくみの根っこの部分を見ると、すごく賢い中心的なモノが支配しているのではなく、一つひとつの機能はシンプルで、それぞれが互いのやり取りの中で補完し合い、役割を果たしており、系全体としてうまく機能し、世代を超えながら進化・持続していく賢さにあふれています。今後の情報環境を考えるとき、この環境知能の考え方が仕組みのつくり方、活用を考える上で鍵を握ると考えています。日進月歩で要素となる技術が変化しても、アンビエントな情報環境として人を取り巻く環境全体の中で調和を保ち、人や自然と一体となって賢くふるまう生態的な情報環境を志向し続けることが重要だと考えています。持続可能な21世紀社会の実現に向けて、こうした環境知能を意識した研究開発をこれからも続けていきたいと考えています。

研究者からのメッセージ

「環境知能」の発想で持続可能なモノづくり、まちづくり

研究者からのメッセージ

SDGsへの取り組みが求められる中、今までのように技術主導でその延長線上に未来を考えるのではなく、こんなシーンを実現するためにはどうすればいいか…という考え方が求められるようになるでしょう。もしかすると、コンピュータを使わなくていい場面もあるかもしれません。環境として技術をとらえることで、持続的なモノづくり、まちづくりが実現できると思います。

私の研究室では、若い学生たちの知恵を引き出し、その発想をもとに様々なインタラクティブ・メディアを具現化しています。多くの人に体験してもらうことで、アンビエントな情報環境の魅力を伝え、それによって社会を変えるようなイノベーションを生み出していけたらと考えています。