Need Help?

Ryukoku Extension Center

龍谷エクステンションセンター(REC)

シーズダイジェスト

給食施設のおいしくて安全・安心な食事の提供のために 農学部 食品栄養学科 朝見 祐也准教授

[プロフィール]
神戸学院大学栄養学部卒、神戸学院大学大学院栄養学研究科修了、博士(栄養学)、管理栄養士
京都栄養医療専門学校講師を経て助教授
南九州大学健康栄養学部管理栄養学科講師を経て准教授
龍谷大学農学部食品栄養学科講師を経て准教授

農学部 食品栄養学科 朝見 祐也准教授

時代の求める質の高い管理栄養士を養成することを目指して、学部教育では給食経営管理論分野と調理学分野を担当しています。研究でも学部教育の担当科目に対応した給食経営管理論分野と調理科学分野という2つの大きなテーマで研究を行っています。適切な栄養管理が行われていて、衛生面で安全・安心で、さらにおいしい食事を、コスト管理を行いながら提供するためにはどうすればいいか、ということに焦点を当てて、給食会社などと連携しながら研究を進めています。

ATPふき取り検査法という衛生検査法を用いた給食施設・設備の清掃法の開発というテーマで、研究を行っています。ATP(アデノシン三リン酸)はあらゆる生物のもつ物質で、食品の残渣や食中毒を起こす微生物の中にも含まれています。このATPを「汚れ」とみなして、給食施設の調理台や調理器具の一部を綿棒で拭き取とり、清浄度等を調べることができます。このATPふき取り検査法を使って衛生管理の手法を考えたり、あるいは清掃法を考えたりしています。給食現場では厚生労働省作成の「大量調理施設衛生管理マニュアル」という手引きをつかって衛生管理を行っています。当該マニュアルには掲載されていない、調理機器や器具、設備の洗浄法、清掃法があります。科学的根拠に基づいた調理機器等の衛生管理のマニュアル作りを進めていきたいと思います。

厚生労働省発表の「日本人の食事摂取基準」に掲載されている食塩相当量の1日の目標量は、男性で8g、女性で7gです。この量は和食を中心とする日本人の食文化にとっては厳しい数値であることが指摘されています。食事摂取基準をもとに栄養管理を行っている給食施設では、この厳しい食塩相当量の目標量に対応するため、調理法を工夫したり、あるいは汁物を抜いた献立を立てるなりして減塩を意識した栄養管理を余儀なくされている現状があります。給食施設における「和食の利用」は食塩相当量を低減することが大きな課題であり、この課題を解決することが、給食施設における「和食文化継承」の役割を果たせることにつながるものと考えられます。減塩の手法として、汁物に着目して研究を進めています。汁物は、食塩濃度が高く、汁物の食塩濃度を低くすることが、食事全体の食塩相当量を減らすのに容易であると考えたからです。給食施設に限らず、一般家庭でも汁物の減塩でよく使われる手法として、「出汁をきかせた汁物にする」ことが知られています。今は昆布出汁に着目して研究を進めていて、濃い出汁を作るには、時間をかけたり、昆布の量を増やせばいいわけですが、給食は低コストでかつ、限られた時間内に調理しないといけないため、昆布量が少なくてかつ短時間でとれる昆布出汁の調製法を研究しています。

物性測定器

物性測定器

研究テーマの一つ、蕎麦の美味特性の物性論的(テクスチャー特性・破断特性など)な解析を行っている。

調理科学の分野の研究では「穀類伝統食品の美味特性の解析」というテーマで、蕎麦などの美味特性(おいしさ)を解析する研究を行っています。蕎麦は味が淡泊であるので、おいしさを決定する因子は、口の中でそしゃくした時の食感などが強く関係していると言われています。蕎麦の食感(物性)を測定を中心として、美味特性を解析しています。蕎麦の品種による物性の違いや、小麦粉、山芋、卵などのつなぎによる物性の違いなどの解析に加え、蕎麦職人が伝統的技法で調製する蕎麦麺の物性解析などを進めています。なぜ食感が硬くなったり柔らかくなったりするのか、蕎麦の成分の変化も見ながら解明していきます。

これまでに当該分野の論文発表や学会発表を数多くしてきていますが、この研究成果をいかに多くの蕎麦職人さんに知っていただくかが、課題だと感じています。

給食経営管理実習室

給食経営管理実習室

給食施設における大量調理のシミュレーション実習が行える給食経営管理実習室。最先端の厨房機器が導入されている。

病院や福祉施設などの給食委託に特化した最大手の給食会社、日清医療食品株式会社様と管理栄養士養成の面で連携しています。

我が国では、現在労働人口減による人手不足が課題になっていますが、給食サービス業界も同様で、今後は深刻な状況になることが予想されています。日清医療食品様が取り入れられている「セントラルキッチンシステム」は、調理工場(セントラルキッチン)で食事を調製し、その食事を冷蔵で契約の施設(サテライトキッチン)に配送し、再加熱して喫食者へ提供するという調理方式のことです。少人数で効率よく食事提供でき、合理化を図れるため、大変注目を浴びています。

時代に合った管理栄養士を養成するということで、日清医療食品様のセントラルキッチンで調理した完調品を購入させていただいて、本学実習室をサテライトキッチンに見立てた実習を取り入れています。真空包装された食事が冷蔵状態(3℃)で運ばれてきたもの(クックチル方式)を再加熱から実習するということです。もちろん食材の搬入・下処理から行う実習もしますが、セントラルキッチンシステムの実習と比較して、どれだけ人手や人件費が抑えられるかを考えさせることができます。セントラルキッチンシステムの実習は、再加熱からの実習で、手抜きのように思われますが、最新の給食システムを理解することが大切だと考えています。コストをしっかり管理して、かつおいしく、人材不足にも対応していくことも必要です。

安全・安心でかつ、おいしい食事を作れてそれを土台にしながら喫食者の栄養管理を行う管理栄養士の仕事は、対象は食べ物ではなく人なんです。この何年かで管理栄養士に求められる役割が変わりました。病院でも多職種と連携しながら、チーム医療で仕事をするようになりました。食を通じて人を幸せにすることができる、人の幸せと健康の土台づくりをする仕事であるということを伝えたいし、管理栄養士の仕事の大切さ・楽しさ・やりがいを多くの管理栄養士を目指す学生・受験生に伝えていきたいと思っています。

研究者からのメッセージ

論理的に考え行動する管理栄養士を育てる

給食会社様など関連する企業・組織との連携をより深めながら、これからの時代にさまざまな現場で活躍できる、優秀な人材の育成を目指したいと考えています。具体的には、マネージメントのできる管理栄養士、そして、研究のできる管理栄養士を養成したいと思います。論理的に考えて行動し、科学的根拠に基づいた仕事ができるようになってほしいと思っています。

研究成果を学会発表したり、論文の書ける管理栄養士がもっと出てきたら、この業界はさらに活性化し、管理栄養士はより魅力ある仕事になると思います。