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シーズダイジェスト

“ごみ”という言葉が“ごみ”になる社会を実現する廃水処理・廃棄物処理の技術開発・動態調査理工学部環境ソリューション工学科  奥田 哲士准教授

広島大学大学院 工学研究科 移動現象工学専攻 博士課程後期修了
国科学技術院 応用科学研究所 研修研究員、広島大学大学院工学研究科 物質化学システム専攻 助手、広島大学 環境安全センター助教
龍谷大学 理工学部 環境ソリューション工学科 准教授

理工学部機械システム工学科  永瀬 純也講師

長期的な研究課題として、水処理技術や資源の有効利用技術の開発、環境中の物質動態の研究に取り組んできました。

研究室では、「水」と「廃棄物・未利用資源」を対象にして、「環境調査」と「処理技術開発」を両軸に、問題解決の技術開発や新たな技術・価値の創造に取り組んでいます。

「水」に関しては主に凝集沈殿処理や膜分離処理に関する研究、「廃棄物・未利用資源」については汚泥や鉄鉱スラグを利活用する研究にチャレンジしています。

個人的な夢は“ごみ”という言葉をなくすことです。将来は排水も含めて今、ごみや廃棄物と呼ばれているものすべてが必ず何かに使われているような社会が実現し、ごみという言葉自体がなくなるのに貢献できる技術開発等の研究をしたいと思っています。

リサイクルに係る動態調査として、鉄を取り出した後に残る鉄鋼スラグの有効利用について研究しています。日本国内だけでもたくさんの量のスラグが発生しますが、現状でも99%以上は土木用や道路用の資材に有効利用されています。ただ、土木や道路工事が減少するなどの社会情勢の変化等でその1%が利用されなくなると、例えば転炉系スラグと分類されるスラグだけでもおよそ10万トンにのぼるような量になりもったいなく、さらに埋立処分となってしまった場合には処分場不足等の問題が発生することが心配されます。

鉄鋼スラグの中でも工程や条件の違いにより様々な種類のスラグが発生しますが、私が研究対象としているのは、カルシウムを多く含むスラグです。そのようなスラグは、雨水や淡水と接触するような利用方法には向いていない場合がありますが、もともとカルシウムを多く含む海水に接触する用途での利用であれば(温暖化や海の酸性化の原因の一つである)二酸化炭素を吸収できるなどの効果が期待できるのではないかと考え、海域でスラグを使った場合に含まれている成分が化学的にどう変化するか、どういう影響があるかということを調査しています。海域での利用とは、例えば、人工砂浜を造る際、また海砂を採取した際の穴を埋めるのに使うといったことが考えられます。人工物を自然の中で利用する場合は、もともとそこに無かった物質が拡散したりすることによる悪影響が心配されますので、あらかじめこういう反応がこの程度起こるということを明らかにするなど、知見を蓄えて用途を考えれば安心して使えると考えています。

過去にのめり込んでいて、また機会があればやってみたいと思っている研究として、プラスチックごみをリサイクルするための分別技術の開発があります。ごみとして集めたときにはさまざまな種類のプラスチックが混ざっているので、再利用するには種類別に分ける技術が必要になります。水に浮くか沈むか、というのは昔からある方法ですが、それに表面が酸化されやすいかどうか、泡が付きやすいかどうかといった性質も加え、分別する技術開発をしていました。

これからも、利用しにくい副産物や廃棄物の利用用途を開発したり、処理によって有効利用できるようにしたりする技術を開発し、さまざまなものの有効利用の扉を増やして、どんなものでも何かに有効利用できるようにしたいと考えています。

鉄鋼スラグ

鉄鋼スラグ

カルシウムを多く含むスラグを海域で使った場合、含まれる成分が化学的にどう変化するか、どういう影響があるかを調査している。

水処理のために(コーヒーのフィルタのような)膜を利用することが増えていますが、処理中に蓄積する汚れを取るために薬品等で洗浄すると、現在よく使われている有機高分子の膜はだんだん劣化して交換が必要になります。たいへん丈夫で、交換せずに極めて長い間使い続けられる可能性があるセラミック製の膜に惚れ込んでいて、その洗浄方法に関する研究もしています。

例えば、オゾンという酸化性の物質を利用したり、ウルトラファインバブル(UFB:日本ではナノバブルと呼ばれることも多い)、加熱水蒸気という、新しい技術を利用しての膜の洗い方を開発しています。UFBは水中の大きさが数百nm(ナノメートル:1nmは1mmの百万分の一)以下の目に見えない気泡で、泡の表面は汚れなどを吸着しやすいといわれており、薬剤を使わなくてもUFBを含む水を通すだけで、細部の汚れまで洗浄することができる可能性があります。

このUFBを用いた他の研究としては、高速道路のトイレ洗浄では、既に薬剤を減らすためにUFBを使って洗浄しているところがありますが、トイレの尿石が配管にスケールとして付着することを抑制したり、スケールを除去しやすくする効果についての研究また、擦って洗浄できない配管中での効果を調査するなどしています。これにオゾンの効果を組み合わせると排水処理で発生する(下水)汚泥の発生量を減らして手間やコストを省ける可能性もあります。これらについては、これからUFBを利用したシステムが導入される予定の複数のパーキングエリアでの検討について、技術協力やアドバイス等を行う予定です。

水道水をつくるための水処理の過程で、にごりの成分などを除去することで水はきれいになりますが、除去されたにごりが集まった汚泥の再利用が課題になります。この汚泥は、下水汚泥が有機物質であるのに対して無機物質(元は川の水の中の小さい砂)ですので、セメントに混ぜたり、グラウンドの砂に使ったりして再利用されていますが、その過程でアルミニウム塩などの無機凝集剤を入れると、薬品がその汚泥に残ってしまいます。アルミニウムはリンと引っ付きやすいので、例えば農地で汚泥を利用する場合は、たくさんの肥料が必要となる可能性があります。

それをなくすために、「モリンガ」という熱帯植物の種から抽出した天然凝集剤の研究を行っています。モリンガはインドを原産とするワサビノキ科の植物で、鞘の中にできる種に凝集活性成分が含まれています。

広島大学の博士課程在籍時の指導教諭がフィリピン大学から来られた先生で、「水処理に使える」とフィリピンから持って来られたのがモリンガとの出会いでした。ある国では濁った水にモリンガの種をつぶして入れておいたら翌朝きれいになっているという、おばあちゃんの知恵袋のような現象を調査し、論文になっていました。その論文を参考にして、博士課程の時代に種から成分を効率よく採る方法を研究して、いくつか論文を書きました。もともとは水に混ぜるだけでしたが、さまざまな溶媒や溶質で溶出したり、いろいろな方法で精製を試みて、必要な凝集を引き起こす成分だけを取り出すという研究をしました。

このモリンガ凝集剤、あるいは天然凝集剤に着目される人が増えています。昨年、天然の凝集剤を探しているという企業から声をかけていただき、もう一度研究してみることにしました。幸い、科研費という文部科学省の研究助成も頂け、学内の温室でモリンガを育てているほか、マレーシアに畑を借りて栽培したり、問い合わせ頂いた企業の排水等の凝集試験をしたりしています。今後の研究の発展についてもアイデアがいくつかあって、汚泥の再利用性を向上する機能を調査するとか、精製方法も膜などを使って必要な成分だけを効率よく取り出せないか、などを考えています。

簡単に精製して製品化できる良い方法ができれば、東南アジアなどの熱帯地方で栽培できる地域の商品作物になるのではないかと期待しています。また、種をつぶすとオイルが出てくるのですが、そのオイルを化粧品会社が香水に使っています。葉や花はお茶や香辛料になりますし、それらの残りかすは飼料や肥料にすることもできます。それらの商品との共存が可能かなども評価したいと思っています。

穴を掘ったり山をわざわざ削って鉱物から凝集剤を作るのではなく、モリンガを育てることで太陽と大気中の二酸化炭素から植物由来の凝集剤をつくり、水処理した後の汚泥もそのような植物の育成に使える、となると、ごみを無くす、循環型社会をつくる強力なツールになると考えています。

モリンガの種子

モリンガの種子

凝集活性成分を含むモリンガの種子。汚泥の再利用性を向上する機能や、新たな精製方法などが今後の研究テーマとなる。

研究者からのメッセージ

新しい技術やアイデアをもとに進化して環境問題に挑戦

環境問題は取り返しのつかないことも多いので起こらないように予防するのが大切ですが、起こってしまった問題に対しては解決策(ソリューション)が大事で、より効率的、あるいは低コストで多くの方々に使ってもらえる技術を開発するのも環境ソリューション工学の役目です。これまでの研究の積み重ねに、今後も新しい技術やアイデアを取り入れながら、解決が難しいさまざまな環境問題にチャレンジしたいと思っています。

処理対象としては各種スラグや汚泥、廃プラスチック、災害廃棄物などの適正廃棄や資源化に困っておられる場合、対処技術としては膜やオゾンやUFB、さらに各種選別法について新技術やアイディアを持たれている企業とは、何か一緒にできるのではないかと思います。