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龍谷エクステンションセンター(REC)

シーズダイジェスト

科学捜査から工業製品検査まで機械学習モデルを使った技術で解決 先端理工学部 知能情報メディア課程 藤田 和弘 教授

[プロフィール]
京都工芸繊維大学大学院修士課程工芸科学研究科電子工学専攻修了。同大工芸学部助手、同大情報科学センター助教授を経て、龍谷大学理工学部助教授、その後、教授に昇任。京都工芸繊維大学博士(学術)。「日本法科学技術学会」会員としても活躍。画像鮮明化技術係る研究・技術支援に力を注ぎ、滋賀県警察本部長や京都府知事からの感謝状を受ける。また、日本ネットワークセキュリティ協会JNSA賞などを受賞。

フォレンシックという言葉をご存じでしょうか?ドラマなどでお馴染みの司法解剖もその一つで、鑑識、つまり犯罪捜査における証拠の分析という意味合いを持っていますが、一方で時代の変化とともに従来の法医学の枠組みにとらわれない多様なフォレンシック技術が求められるようになってきました。特に、防犯カメラ等の普及により、画像処理・画像識別などメディアを対象としたフォレンシックの重要性が高まっています。

20年以上前から、私がある県の科学捜査研究所(科捜研)と一緒に取り組んでいるのが、機械学習手法(データサイエンス手法)を使って防犯カメラに写った低解像度ナンバープレートの数字を識別する研究です。一口に機械学習といっても様々な手法があります。例えば、3や7という数字を識別する場合、モーメント特徴量分析、つまり数字が持っている非対称性など幾何学的な特徴だけで判断しても、その結果は必ずしも正確ではありません。しかし、そこに深層学習や主成分分析という複数の機械学習手法を統合し、ニューラルネットワークを用いて最適化していくと、確率的に正しい答えを導き出せるようになります。

その他、劣化画像の復元・鮮明化や改ざん画像の評価・分析など、デジタル社会においてメディア・フォレンシックが活躍する分野は大きく広がっています。今まで捜査員の経験や勘に頼ってきた部分に、法科学的な視点を取り入れることによって、より迅速で効果的な犯罪捜査が可能になるでしょう。

西陣織に代表される高価な着物は、シミ抜きや染色補正など十分な手入れを行うことで長年に渡って大切に維持されています。しかし、汚れやシミが淡く小さく目立たない場合は、目視で見分けることは容易でありません。

地域連携の一つとして、京都府中小企業技術センターと共同で取り組んだのが、こうした衣類の汚れやシミを鮮明化して画像で確認しようという試みです。ハンカチに微量なインスタントコーヒーを付着させ、白色LEDと近紫外LEDの光源下で撮影した2枚の画像を比較すると、白色LEDでは汚れは視認できませんが、波長370nmの近紫外LEDでは汚れ部分が弱く蛍光することが分かります。この2種類のカラー画像を構成するRGB成分に対して、独立成分分析やSparse Representationという機械学習手法を使って色差情報を抽出し、ハンカチの柄(テクスチャ成分)を低減することで、シミの部分を抽出することが可能となりました。

着物業界への技術展開はもちろん、犯罪捜査の現場においても、スマホなどに近紫外LEDライトを取り付け、特定の波長で血液や体液などを光らせれば、鑑識作業の負担はより軽減されるかもしれません。新しい価値につながる汎用性の高いシーズで、今後は様々な分野で社会実装を目指せると考えています。

大学教育において、FD(Faculty Development)という概念が定着しつつありますが、教育の質を高めていくためには授業について学生からのアンケートを解析・フィードバックし、カリキュラムやプログラム等の改善・開発につなげていく必要があります。私は教学企画部長として、大学生基礎力調査や大学IRコンソーシアム学生行動調査、GPA評価などのデータを活用し、決定木などの機械学習モデルを使って教学IRの推進に取り組んでいます。

例えば、GPAが高い学生の傾向を調べると、「授業を欠席しない」で「期限までに授業課題を提出した」学生が多いということが理解できます。一方で、「授業を欠席した」が「専門分野や学科の知識を修得」し、「図書館を多く活用した」学生も、同様にGPA評価が高くなっています。当たり前と思うかもしれませんが、この当たり前を目に見えるエビデンスにして提示することが大切です。大学教育を入力(入学)と出力(卒業)に置き換えれば、その中身であるシステム(教育)を常に検証し、ブラッシュアップしていく必要があるのではないでしょうか。

今、人工知能や機械学習への依存が高まる中、ブラックボックスのままで説明できないA(I Not Explainable AI)、例えば不良品の検出で画像識別を外注している企業は、自社製品の信頼性をお客様にどのように担保するのでしょうか?AIは決して錬金術ではありません。学習と実践的な経験を積むには1000時間が必要と言われますが、私たちが培ってきたスキルとノウハウを幅広く共有することで、説明できる機械学習のモデルを構築し、事業やサービスに生かしていただければと思います。