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世界の市場で日本の食を販売する方法を考える 農学部 食料農業システム学科 金子 あき子 講師

[プロフィール]
桃山学院大学大学院経済学研究科応用経済学専攻修了。博士(経済学)。食品小売企業に勤務後、JICA青年海外協力隊、JICA草の根技術協力事業 国内調整員、国立民族学博物館 特別共同利用研究員、桃山学院大学共通教育機構国際センター 講師を経て、2019年4月から現職。2019年日本農業市場学会奨励賞(川村・美土路賞)受賞

2010年以降、中国では経済成長が加速し、14億もの人口を抱える消費大国として市場の魅力が増しています。特に食品分野においては、今までのようなものづくり拠点としてではなく、現地で商品の生産・販売を目指す日本企業も少なくありません。商慣習も法律も異なる中国市場で、日本と同じような高品質・高付加価値の商品をどのように作り、誰にどうやって売ればよいでしょうか?

農業企業のA社は、2007年に中国山東省に進出し、翌年には中国国内で野菜苗やカラーリーフ苗の生産・販売を始めました。日本のA社の農場で技能実習生として勤務した経験がある優秀な人材を正社員として雇用し、彼らが中心となって現地従業員に技術指導を行っているほか、山東省の気候や土壌に合わせた独自の生産管理マニュアルを作成し品質管理を徹底するなど、現地従業員の能力の差が生産に及ぼす影響を軽減する工夫に取り組んでいます。

A社の主な販売先は上海市にあるガーデンセンターですが、山東省からは距離があり、商品を流通させる上で輸送代が大きな障壁となっていました。A社では、芽が出たばかりの軽量コンパクトなプラグ苗を上海市の協力企業に送り、その協力企業がプラグ苗をポットに植え替えて近隣のガーデンセンターへポット苗を出荷するというリレー栽培を実施。信頼できる現地企業との連携によって、輸送コストを抑えることに成功しました。

生産管理マニュアルの作成やリレー栽培による生産は、これまでの農場経営の中でA社が独自に蓄積してきたもの。ターゲットとする市場の流通システム、従業員のスキル、消費者の嗜好等に合わせて、培ってきた経営ノウハウをアレンジし、うまく活用することで中国国内でのシェアを広げています。

A社のポット苗

中国市場での販売における課題は何でしょうか?大きなスーパーマーケットチェーンやコンビニチェーンなどの小売店は「現代チャネル」と呼ばれています。中国では現代チャネルの小売店に商品を納入する際に棚の使用料やバーコード登録料を請求され、またセールを行う際には協賛金を請求されることも珍しくありません。知らないうちに自社商品を安売りされることも多く、ブランド価値の維持が難しいという懸念もあります。

即席麵の製造・販売を行うB社では、中国小売市場の過半を占める個人商店や学校内にある売店などの小売店、いわゆる「伝統チャネル」に着目。個人商店の数が特に多い広東省におけるその販売比率は、全体の6割に達しています。棚の使用料や協賛金などは必要なく、農村からの出稼ぎ労働者や大学生など一定の顧客を持っていることから、一個店の売上規模は小さいながらも、魅力的な販売チャネルといえるでしょう。

B社では、自社だけでなく、現地の問屋や個人商店などの取引先が確実に利益を得られるよう、商品の流通・販売にかかる手数料などをあらかじめ考慮して商品の価格設計を行っています。努力が売り上げに還元されるWin-Winの仕組みを作ることで、彼らのやる気を高め、日系企業にとって営業活動が難しい地域にも販路を広げることができています。

中国の大手スーパーマーケットでは棚の使用料などの経費負担がかかるため、利益を追求することは難しいのですが、店頭に置くだけで多くの消費者の目に触れ、商品の宣伝やブランド向上につながるというメリットもあります。企業の知名度を上げるために現代チャネルで商品を販売し、利益は伝統チャネルで確保するなど各チャネルの長所、短所を理解し使い分けることが大切です。

台湾での物産展

中国などアジア市場へのゲートウェイとして、日本との距離が近い台湾に進出する日系企業もあります。例えば、台湾でファストフードチェーンを展開するC社では、レストランで食事を提供する以外にも、C社で製造した安全・安心な食材を中国やフィリピン、シンガポール等の第三国の現地法人へ輸出しているほか、豊富な知識と技術を持った台湾のC社従業員を第三国に派遣し、現地法人の従業員やサプライヤーを指導させる取組を行っています。

今、世界の市場において、健康的で美味しく、安全・安心な日本の食が求められています。2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円にするという政府の目標も追い風となり、日本の食品関連企業にとっては大きなビジネスチャンスが訪れたといえるでしょう。海外における食品の生産・販売を考えることは、異文化を学ぶことにもつながります。これからも多くの企業の皆さんのチャレンジを後押しできる研究成果を発信していきたいと考えています。