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河川や湖沼など水源から家庭の排水まで健全な水循環システムの構築で水環境保全を目指す 環境ソリューション工学科 岸本 直之 教授

[プロフィール]
京都大学大学院工学研究科修士課程修了。関西電力株式会社総合技術研究所研究員を経て京都大学大学院工学研究科環境工学専攻にて助手、講師。
2003年より龍谷大学理工学部環境ソリューション工学科助教授、2008年より現職。自然や人工の水循環系を研究対象に、水質に着目しながら地域の健全な水循環システムのあり方およびその制御法について研究を行っている。

多様な水環境に最適な水質システムのあり方と
その制御法を追求し
社会に役立つ技術開発へ

環境ソリューション工学科 岸本 直之 教授

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自然が山に雨を降らせて水が流れ、河川や湖沼に到達します。私たちの研究室では、河川や湖沼などの水源における水質保全に関連する技術開発を行うとともに、都市部における水利用の最適化や使用した水を最終的に自然界に戻していく際の環境負荷低減技術の研究開発を行っています。
研究の柱は大きく分けて、水の再利用と処理システム開発、流域のモニタリング、水源対策です。なかでも環境負荷や人的負担の少ない高度浄化処理技術、循環・再利用システムの推進が技術開発の大きなテーマとなります。構築した水の再利用システムや循環システムは、さらに時代と共に変化する水需要のパターンにあわせて最適化していく必要があります。水源対策、水の利用対策など、実施した効果を必ず検証しなければならず、そのための流域モニタリングの整備を含め、これらを一体的に捉えて研究を行っています。

排水中には多様な物質が含まれ、なかには内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)やダイオキシン、農薬など微量でも人体に影響が出る恐れのある物質も含まれていることがあります。これらの微量有機汚染物質には生物分解されにくい物質も数多く知られています。現在、これら微量有機汚染物質の処理に注目されているのが「OHラジカル」であり、非常に酸化力の強い物質で多くの難分解性有機物を完全分解できることが知られています。私たちの研究室では、オゾン処理と電解処理を併用してOHラジカルを効率的に生成する処理装置の開発を進めてきました。これは排水処理への応用を目指した技術開発なのです。

このオゾン電解併用処理は電気さえあればOHラジカルを作ることができます。つまり薬剤の投入を不要とすることが大きな利点で、さらにオゾンもOHラジカルも酸素原子(O)や水素原子(H)からできている ことから最終的に酸素と水になり、残留性がありません。そのため環境に対して安全性が高く「危険物処理」「安全性確保」という観点からも優位です。

多くの実験で処理系の有効性を確認し、現在はさらに高効率化のためのシステム開発を進めています。ある特定の反応だけを加速させるため、分離型反応槽など構造を工夫した処理システムの開発を行っています。今後は実用に向けた施策が課題であり、初期コストを低減するため小型電極を用いて効率よく大量の処理を可能とするべく改良を進めています。

※ 微量有機汚染物質
微量有機汚染物質は、環境中に極微量に含まれ、汚染を引き起こす様々な有機化合物のことである。従来、水質管理はmg/Lの濃度レベルの汚染を対象としていたが,ダイオキシンや農薬、発がん性物質である臭素酸イオンやトリハロメタンなど、水中に極微量に含まれていても有害性が危惧される汚染物質の存在が明らかとなり、μg/Lの濃度レベルの水質管理が要求されるようになってきている。

※ OHラジカル
OHラジカルは、水酸化物イオンから電子が1個失われた物質(ラジカル)で、非常に強力な酸化剤(標準電極電位:2.38eV)であり、ほとんどの有機物を二酸化炭素まで完全に分解することが可能である。特に農薬やダイオキシン、環境ホルモンという分解性が悪いうえに微量でも有害な物質の処理に適している。

オゾン電解併用処理装置

オゾン電解併用処理装置

装置構成例

装置構成例

水の再利用は、工場や大規模な事業所ではすでに普及しつつあり、公共下水道などでも普及の努力が続けられています。そのような中、再利用の取り組みが進んでいないのは実は家庭の生活排水なのです。私たちはこの点にも着目し研究を行っています。家庭における水利用量の割合は、風呂が1/4〜1/3、トイレが1/5〜1/4、洗濯が約1/5、あとが炊事や雑用水となります。そのなかで比較的汚れが少ない風呂水と洗面排水を再利用すると30%程度の再利用率を達成することができます。飲み水には使えないが、簡単な処理と消毒で、トイレや洗濯などに使用可能となります。

基本的に、この再利用のための処理も薬剤を使わない方法を考えています。風呂水や洗面排水に含まれている物質を電気化学的に変化させて再利用で問題となる物質を分解し、同時に消毒効果を持たせる処理を行います。

ただし、現在の家庭の排水設備では使った水が同じ排水系統に集まるので、排水系統を分けなければなりません。従って既存住宅への導入は難しく、新築時に組み入れておく必要があります。これには、「エコ住宅」の観点を取り入れることができると考えています。環境意識の高い層に向けて、エネルギー消費を軽減するソーラパネルや断熱効果の高い材質などを用いたエコ住宅の提案が盛んに行われていますが、そこにまだ水環境への配慮が含まれていません。ライフラインとして不可欠な水の再利用を組み込むことで、もう一歩進化した未来のエコ住宅が生まれるはずです。住宅関連企業、特にハウスメーカーや住宅設備メーカーとのタイアップにより、新しい需要が喚起できるのではないかと考えています。

現在、全国各地の河川では、水質の自動観測が行われています。ところが、使われる観測装置は実験室の分析システムを自動化した手法が用いられているのです。有害な試薬を使い、試薬の補充も必要であることから、メンテナンスにコストと手間がかかります。そのため使用範囲が限られ、観測が実際の水質管理や保全に有効活用されていません。水質保全に大きく関わる、栄養塩(N・P)や有機物質指標(TOC、COD、BOD)に関連する自動計測は極めて限られています。これを解決し、自動観測を水質管理や保全に活かしていく為には、モニタリングを効率化しなければならないのです。

私たちが研究開発したのは、低コストで維持管理費用を抑えた水質計測モニターです。前処理を一切行わず、試薬を使わないので非破壊であり、基本的に水中成分による吸光度を計測し.利用する。吸光度自体は特に新しい技術ではありませんが、私たちの研究の特長は情報処理のアルゴリズムを応用し、水中にある妨害物質の影響をリアルタイムに補正すること。さらに補正係数を変化させるアルゴリズムで、より測定精度を高めながら安定性を向上させていることです。

また、従来のように水中にある汚濁物質の正確な測定を目的とせず、平常時を基本に異常の有無を検出する、いわゆる危機管理モニターの開発も進めています。

開発した装置は、コストが低く抑えられるため、バックアップを備えて2系統とし信頼性を増すことも可能です。維持管理についても、実際に河川などで3ヶ月の連続計測実験を行ったところ、メンテナンス フリーで計測精度低下の問題もありませんでした。現在共同研究企業と特許出願を行い、商品化の検討段階にきています。

※ 栄養塩
富栄養化は水中のプランクトン等が増加することにより、水中での有機物生産量が増す現象である。プランクトンの増殖に必要な元素を栄養塩という。多くの水域ではプランクトンの増殖に対して水中の窒素(N)やリン(P)が不足している場合が多く、NやPが増えるとプランクトンの速やかな増殖が起こり、アオコや赤潮が発生する。

※ 有機物質指標
有機物は二酸化炭素等の一部の単純な化合物を除く炭素化合物のことであり、無数の種類がある。水質管理においては個々の有機物を管理することは不可能なので、有機物量を総合的に表す指標を用いて環境基準が決められている。代表的な有機物指標に化学的酸素要求量(COD)と生物化学的酸素要求量(BOD)がある。

※ 吸光度
水に光を照射すると、水中に含まれる物質が光を吸収することがある。このとき、光の透過率の逆数の常用対数値を吸光度といい、光の吸収する程度を表す。吸光度の大きさは光を吸収する物質の濃度に比例することが知られている。

環境ソリューション工学科 岸本 直之 教授

湖沼やダムのような水源で一番問題になるのが、水底にヘドロなどが溜まって水中の酸素が無くなり、底泥から窒素やリンが溶け出して アオコや赤潮が発生するという富栄養化です。これを断ち切るために、深水層に酸素を送る深層曝気を行う場合があります。しかし、大きな湖沼やダムのような場所では、超大型の深層曝気装置を何基も 稼働させて酸素を送り込むので、当然大きな動力を必要となります。酸素は供給されるが、膨大なエネルギーが消費されるのです。

私たちは、このような動力を使わず太陽光エネルギーで酸素を送り込む研究を行っています。自然界では光合成によって植物が酸素を供給しています。水の中にはたくさんの植物プランクトンがいますが、問題は水底まで光が届かないということです。そこで、太陽光の集光パネルをダムの上に設置し、光を集めて光ファイバーで水底へ導きます。すると、その水底部分で光合成が始まり、これで酸素の供給が可能となります。太陽光を使い設置するだけで特別な動力が不要である ため、環境保全の点からもこのシステムの導入に期待しています。

太陽光を利用し、湖沼の底へ酸素を供給 動力を使わず水を美しく再生

私たちが進めている水質環境の保全は、まず対応するべき「場」の設定があり、その場をいかにより良い状態に導いていくかという 観点で水質環境改善・創造に取り組んでいます。使える技術やアイデアは何でも取り入れて使います。逆にそれを組み合わせて最適化していくことが環境ソリューション工学の大きな特徴でもあります。
連携し健全な水環境の創造に貢献することを目指していきたいと思います。