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厚鋼板の接合を安価に実現する新規材料のツールを用いた固相接合 先端理工学部 機械工学・ロボティクス課程 森 正和 准教授

[プロフィール]
大阪大学大学院工学研究科機械システム工学専攻修了。同大学接合科学研究所研究機関研究員、産業技術総合研究所特別研究員、龍谷大学理工学部機械システム工学科助手、助教を経て、現職。大阪大学接合科学研究所共同研究員や(株)Solid Phase取締役も兼ねる。

金属を接合する方法として、金属を溶かしてつなぎ合わせる溶接技術が知られていますが、金属を一度溶かしてしまうために、相対的に金属の強度が下がると考えられています。また、例えばアルミと鉄では融点が大きく異なるため、異種金属の接合には溶かしてつなげるという技術は使いにくいという課題がありました。

私が研究している摩擦攪拌接合というのは、固相接合法の一種、つまり溶かさない接合技術です。接合に使用するツールの形状はちょうどペットボトルを逆さにしたような姿をイメージすれば分かりやすいかもしれません。ツールを回転させながら部材に押し当てると、ツールと部材が接触した場所で摩擦熱が発生します。摩擦熱で金属の温度が上げることで、金属が軟らかく(水飴のような状態)なり、回転するツールによって流動(塑性流動)することで複数の部材を接合(一体化)していく方法です。

金属が接合するときの温度は、融点の1/2~2/3程度で済むため、溶接などに比べて消費エネルギーが小さいことに加え、融点が異なる金属の接合にも適しているのが特徴です。近年、自動車などは車両の低燃費化・軽量化のために様々な部材を組み合わせて設計されることが多くなっていますが、異種金属の接合が可能な摩擦攪拌接合技術は、SDGsの達成を目指す社会において注目度が高い技術といえるでしょう。

現在、摩擦攪拌接合技術は比較的融点が低いアルミなどを接合する方法として実用化されています。一方、鉄鋼などを接合する場合は、高温下における高い強度と靭性、耐摩耗性を持ったツール材料が必要となります。一般的に多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)が使われていますが、製造コストが高く量産には向いていません。特に近年、橋梁や船舶などの構造物では、6ミリ以上の厚鋼板が使われることが多く、こうしたニーズに対応した汎用性の高い接合ツール材料を開発することが求められています。

私は3年ほど前から、大阪大学接合科学技術研究所と日本特殊陶業(株)との産学連携で、PCBNに代わる新たなツール材料の研究に取り組んできました。今回、候補として選んだ窒化珪素は、ツール材料として耐熱性と靭性を備え、また地球上に多量に存在する元素から合成されていますので、ツール価格が安価になるというメリットがありますが、特に厚鋼板を対象とした摩擦攪拌接合で使うには、まだまだ未解明な部分が多いのが現状です。

例えば、ツールを金属に押し当てたとき、厚さ3ミリ程度の薄鋼板では表面と底面の接合温度差はそれほど大きくなく均一的な塑性流動が保たれます。しかし、厚鋼板の場合は厚みがあるため、底面に熱が伝わりにくくうまく塑性流動しない可能性があります。底面の接合温度を上げるためにツールの回転数を高めると、今度は表面の流動が早くなり、粘度が下がって金属が剥離してしまいます。今回の共同研究では、窒化珪素を材料にしたツールを何度も試作し、各種パラメーターを調整しながら実証実験を繰り返しました。摩擦抵抗の高い金属を接合するときには前進角(ツールと金属が接する角度)を大きくして流動を促すのが一般的ですが、今まで常識と考えていた設定値では流動量が多いのではないか…という逆転の発想で、前進角を3度から1度に小さくし、またツール回転数を従来の400~600回転/分から200回転/分に変更することで欠陥の生成を抑え、新材料を使った摩擦接合ツールの最適条件を導き出していきました。

2022年、私たちの研究成果を活かした窒化珪素製ツールの製品化が実現、販売が開始されました。製造コストはPCBN に比べて1/10程度。まさに、イノベーションにつながる次世代技術として、様々な現場で使われることを期待しています。

摩擦攪拌接合の実験風景

2022年6月、大阪大学接合科学技術研究所の藤井英俊教授、森貞好昭特任准教授と共同で、大学発ベンチャーとなる(株)Solid Phaseを立ち上げました。固相接合には、摩擦攪拌接合のほかにも、部材同士を押しつけ、線形運動で生じる摩擦熱で接合する線形摩擦接合、また接合面を高速で擦り合わせ、圧力を加えてつなぎ合わせる摩擦圧接などいくつかの方法が知られています。例えば、固相接合技術の導入を検討している企業に対して、そのニーズに叶う技術や装置をオーダーメイドで提案したり、プロトタイプを試作したり、大学で受け入れる産学連携とはまた違った視点で、固相接合の社会実装を支援していきたいと考えています。

接ぐ、つなぎ合わせるというのは、ものづくりの根幹をなす技術です。新しい部材や材料がどんどん開発される今、接合技術も進化していかなければなりません。近い将来、あの建物は私たちの固相接合で作ったんだと学生や子どもたちに誇れるよう、これからも大学で創出した価値を世の中に積極的に問いかけていきたいと思います。