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プラズマが切り拓く未来のロケットエンジンを開発 先端理工学部 機械工学・ロボティクス課程 大塩 裕哉 助教

[プロフィール]
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 プロジェクト研究員、東京農工大学 理工学部 機械システム工学科 特任助教などを経て、2019年より現職。

宇宙ロケットを打ち上げるときには、地球の重力に打ち勝つために、大量の燃料を使って高圧のガスを噴射しなければなりません。こうした化学反応を熱源にしたエンジンは大きな力を得られますが、燃費が悪いという課題があります。実際、宇宙ロケットの重さに対して8-9割近くが燃料で占められています。そこで最近需要が高まっているのが、小惑星探査機「はやぶさ」でも注目されたプラズマを利用した推進機です。

プラズマとは、プラスとマイナスの電荷を持った原子(イオン)が同じ空間に混在する状態のことで、気体を加熱することで生成されるので、固体、液体、気体に次ぐ第4の状態といわれています。空気を動かすにはクーラーや扇風機が必要ですが、プラズマ状態ではそこにプラスの電圧を加えた板を置けば、マイナスの電荷を持つ電子が引き寄せられ、プラスの電荷を持つイオンは反発するというように、電圧や磁場を加えることでその動きを自由にコントロールすることが可能となります。プラズマの噴射で得られる力は1円玉を手のひらに乗せる程度の小さなものですが、燃費性能に優れているのが特徴で、重力に縛られない宇宙空間ではたいへん魅力的な電気推進機だといえます。

化学推進とプラズマロケット

「はやぶさ」は長さ1.5メートル、総重量500キロの探査機ですが、近年では数センチから数十センチ四方、数百グラムから数キロ程度の小型衛星を打ち上げようという試みが積極的に進められています。手のひらサイズの衛星に搭載できるエンジンは、ほんの指先くらいの大きさに過ぎません。今まで誰も開発にチャレンジしてこなかった分野ですが、将来の衛星開発のハードルを下げるという意味ではたいへん重要な役割を持つと考えています。

現在、私たちが取り組んでいるのは「はやぶさ」の100分の1、つまり1ワット以下の電力でプラズマエンジンを動かそうという研究です。プラズマを生成するにはヘリウムやアルゴン、キセノンなどの希ガスに、静電気と同じように電圧をかけるDC法(直流法)、あるいは電子レンジと同じマイクロ波を使って電子を加速させるAC法(交流法)が一般的ですが、わずか数ミリの極小領域の中でプラズマを生成するのは難しいという課題がありました。私は従来のような高域周波数ではなく、メガヘルツ、つまりラジオで使われる低い周波域に着目し、さらに磁場の加え方に工夫を凝らして磁力線の構造をあえて複雑化することで、非常に限られた領域の中に小電力でプラズマを効率良く生成・放電させることに成功しました。

今はまだ最適化を行っていない初期段階ですが、実際に1ワット以下の電力で小型衛星に搭載可能な条件での動作に成功しています。近い将来、産や官の力を借りながら、推進機の性能をさらに高めていくことで、実装可能なフライトモデルの開発につなげていきたいと考えています。

超小型プラズマロケット

プラズマエンジンが正常に動作しているのか? 宇宙空間では噴射したガスの反力がそのまま推進力となるため、その性能をきちんと計測し評価することが大切です。では、わずか数ミリ、1万度を超えるプラズマの特性や動作をどのようにして測ればよいのでしょうか。もちろん、直接温度計を挿し込んだり視認したりすることはできません。

実はプラズマは、エネルギーをもらいすぎた電子が原子から飛び出ることによって生成されますが、そのエネルギーを放出して元の中性状態に戻るときに発光することが知られています。私たちの研究室では、小型のカメラや光ファイバーなどを使って局所的に発光をとらえ、分光、すなわち光のスペクトルを波長ごとに見ることで、プラズマの密度と強度を計測しようと考えています。「評価は技術の羅針盤」という言葉がありますが、この極限状態における計測・評価の技術は、宇宙開発はもちろん、例えば化学やライフサイエンスの分野などでも役立てることができるのではないでしょうか。

企業ベース、大学ベースで小型衛星を開発できる時代がやってきました。今まで小型衛星に動力源を積むことが難しく、ロケットから切り離された後は決められたコースを慣性で回るしかありませんでした。私たちのプラズマエンジンが実装されるようになれば、違う場所に移動したり軌道修正したりすることが可能となり、宇宙空間をより広く使うことができるようになるでしょう。今後、龍谷大学から生まれた小型衛星、小型エンジンが、宇宙ビジネスの成長を支える力になればと思っています。