[プロフィール]
京都大学大学院理学研究科修士課程数理解析専攻修了。博士(理学)。専門分野は応用数学。研究テーマは螺旋格子の幾何、複素葉層構造、複素力学系。日本応用数理学会最優秀ポスター賞(2012)受賞(須志田、日詰、山岸)。平成27年スミス大学客員研究員。平成28年より現職。
葉序とは植物の葉や種などの配置のことで、 ひまわりの種の並び方には二本の螺旋が観察できます。また、黄金比やフィボナッチ数列に深く関わっています。
例えば自然界に見られる螺旋や造形作品など、シンプルな素材を対象に幾何学の研究を行っています。シンプルな問題の中にも、意外におもしろい幾何学が隠れていることがあります。
いずれの研究にも共通する点は、複素数の性質と実数の性質の両方が絡み合ったところに、さまざまな現象が現れてくるということです。
日本には、世界的に活躍する現代折り紙作家や造形作家が何人もいます。中でも、布施知子氏や日詰明男氏には、数学的にも美しい螺旋折り紙作品があります。日詰作品の三角形螺旋タイリング「フィボナッチ・トルネード」およびその折り紙は、植物学の葉序や数理工学(折り紙工学)に関連しています。
この研究では、平行移動の対称性をもつ円筒上の螺旋タイリング(パイナップル型)と、相似変換の対称性をもつ三角形螺旋タイリング、ボロノイ螺旋タイリング(ひまわり型)について、特にタイルの形状と連分数展開との関連について調べました。
また、ペンローズタイルに縞模様のパターンが描けることを証明しました。正十二面体の各面にペンローズタイリングの頂点集合の配置で孔を開け、面に垂直に竹ひごを通した「六勾(むまがり)」という日詰氏の立体構造物がありますが、正十二面体を広げて竹ひごを増やしても、竹ひご同士が衝突することなく無限に通ることを証明するための第一歩となります。
<用語について>
葉序】
植物の葉や種の配置のこと。典型的な植物の葉序は黄金比やフィボナッチ数で記述され、連分数やボロノイ図を用いた議論が展開される。
【フィボナッチ数列】
1,1,2,3,5,8,13,21,34・・・という数列で、隣り合う2つの数を合計すると、その次の数に等しくなる。
【黄金比】
線分を一点で分けるとき、長い部分と短い部分との比が、全体と長い部分との比に等しいような比率。1:1+√5/2で表される無理数。近似値は1:1.618。
【ペンローズタイル】
イギリスの物理学者ロジャー・ペンローズが考案した、二種類の菱形タイルを用いて平面を充填する手法。他の平面充填とは違って周期的なパターンがない。
【ボロノイ図】
平面上の多数の点をどの点に最も近いかによって分割したもの。
数理情報学科研究室
自然界に見られる螺旋や造形作品のほか、ビーズやルービックキューブなど身近にあるものも対象にしながら、幾何学研究に取り組んでいる。
巻貝などに見られる対数螺旋は、中心から引いた線と曲線のなす角が一定になっているため等角螺旋とも呼ばれます。
ひまわりなどの典型的な植物では
といったことが観察できます。
対数螺旋格子は、葉序螺旋の最も単純な幾何学モデルの一つで、オランダの植物学者Van Itersonが1907年に考察した円板充填の分岐の研究が行われてきました。
対数螺旋をテーマにした研究では、回転対称な円板充填あるいはボロノイ分割の分岐図を調べて、対数螺旋格子の場合にも、円板充填の分岐図がボロノイ分割の分岐図の双対グラフであることを示しました。
夏休み子ども理科実験・工作教室
プラスチックビーズの多面体や積み木の立体パズル、折り紙などの体験や展示で、遊びながら学べるように工夫している。
アルキメデス螺旋は蚊取り線香のように、2周目以降の巻き幅が等間隔になる渦巻きで、螺旋葉序の研究では、ひまわりや松笠などの植物がフェルマー螺旋ないしアルキメデス螺旋上の格子点列で説明されることが知られています。
フェルマー螺旋格子点列によるボロノイタイリングの先行研究では、回転角が黄金角の場合に
ということが示唆されました。
須志田隆道( 本学卒業生、現北海道大学 電子科学研究所) 氏との共同研究では、アルキメデス螺旋上の格子点列を母点集合とするボロノイタイリングの結晶粒界の性質を数学的な側面から説明し、アルキメデス螺旋格子点列によるボロノイタイリングに関する新しい性質を明らかにしました。
<用語について>
【フェルマー螺旋】
外側へ行くほど巻き幅が狭くなる渦巻き。
造形による幾何学として、編み物や折り紙による双曲平面の製作および研究がありますが、ビーズ編みでも幾何学的な作品が製作されていて、これも研究対象につながるのではないかと考えています。
一本のねじれのない紙の閉じた輪を折って、正四面体の形にすることができます。そのような紙の輪を変形させて切ることにより、正四面体を凸多角形に切り開く展開図が系統的に得られることを説明しました。
6面のうち1面は使わず、5面だけまわしても完成できることは、一部の専門家の間でしか知られていませんでした。しかし、昨年度の数理情報学科の卒業生が、このことを独立に再発見しました。では完成するために、何手必要かを計算して求めるというテーマに、これから取り組んでいきたいと考えています。
小学生に“理科実験のおもしろさ”や“ものづくりの楽しさ”を体験してもらう目的で、毎年本学で開催されている「夏休み子ども理科実験・工作教室」では、身近にあるもので遊びながら数学への興味をもってもらえるようにしています。
ビーズ作家の堀部和経先生による、プラスチックビーズを1本の糸で編み上げて多面体を作る「ビーズで多面体の宝石を作ろう!」のほか、鉛筆を組んだ造形作品や積み木の立体パズル、折り紙などが体験できるようにしています。
おもしろい形やきれいな形を作ることに興味があり、造形作品や螺旋を研究テーマにするようになりました。研究の対象になるものは自然界や造形作品などいろいろなところにあります。研究を進めていくと、まったく関係ないはずの純粋数学の分野の定理を再発見することが何度かありました。分野の違う研究者も同じものを
テーマにしていたり、昔の研究者が同じテーマにアプローチしていたりして、どこかで交差したりつながったりする、そういうところがおもしろいのではないかと考えています。
葉序螺旋はまだまだ研究の余地がありますし、幾何学の研究テーマになるものは実に多彩です。例えば立体の構造に含まれるパターンを数学的に説明できるようにすると、もっと産業分野などで応用できるようになるのではないかと考えています。